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DubLog

     

言葉の壁

サッカー マイノリティー 国際問題

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現在、アイルランドで上から数えて4部目に所属するサッカークラブのシニアチーム(年齢制限無しのトップチーム)でコーチをしているのですが、そのシニアチームも、メインのサンデーリーグを戦う選手と、リザーブリーグ的な扱いのサタデーリーグでプレイする選手に分かれます。

 

僕は基本、後者のサタデーを中心に役割を持っているのですが、先日、監督に頼まれて、メインの選手を中心としたチームが参加している平日の夜のカップ戦に帯同しました。

 

ちょっとした臨時の出世ですが、相手もこのレベルのセミプロらしく、フォーメーションに多少の色はあるが持ち駒が力不足でシステムのバリエーションが乏しい、僕が既に知っているアイリッシュフットボールだったので、チーム分析もゲーム分析も、日本で指導していたときの半分の時間で済んでしまいます。

 

極寒の中、せっかく参加した意義を何とか見つけようと、フォーメーションや仕組みのマッチングの好都合、不都合をぼんやり眺めていたら、あることに気づきました。

 

プロフィールに少し記載したとおり、僕は生涯で40回以上の引っ越しを経験しているのですが、転勤者あるあるの一つに「転勤者が集まると、方言の話で盛り上がる」というものがあります。

 (http://profile.hatena.ne.jp/xmcataguele/

 

「名古屋では『じゃん』の代わりに『がー』って言うんだよ」

「岡山でも言いますよ」

「ちなみに宮崎では『すごく』を『てげ』って言います」

「福岡では『バリ』」

「広島では『ぶち』って言うんだろ?」

「もう若い人は言いませんよ」

 

これと一緒で英語学習者が集まると、その土地独特の発音の難しさにみんなで文句を言い合います。

 

Londonerの代表的な訛りは

「t」を発音しない

「th」が「f」か「v」になる

母音の付いていない「r」は基本無視して伸ばすだけ(例:「door」が「ドー」)

といったところでしょうか。

他にも、特に母音や二重母音に関してはたくさんありますが、長くなるので割愛します。

 

Dublinerの発音に関して言えば、ここでの生活も早2か月を過ぎたというのにまだまだ聞き取りに地獄のような困難さを感じているくらいメチャクチャですが、数少ない解明できたものの中に

「ai」音は「oi」音になる

迷ったらローマ字読みに変換すると上手くいくことが多い

というものがあります。

 

代表例が

「All right=『アーロイ』と発音」

です。

 

話をピッチに戻します。

 

小雨が降る極寒の夜の中、ゲームはスコアレスで進行しています。

 

少しだけ専門的な話になりますが、雨に濡れた天然芝は当然イレギュラーが起こりやすいので、ディフェンス陣はゴールから離れた位置にポジションを取り、一番イレギュラーを起こされたくない自陣のゴール前から、相手フォワードを出来るだけ遠ざけよう(それでも居座ったらオフサイド)と考えます。

 

これがいわゆる「(ディフェンス)ラインを上げる」です。

 

ラインを上げた分、フォワードからディフェンダーまでの距離が縮まり、相手の中盤の選手からしたら、ただでさえピッチコンディションの悪い中、窮屈なエリアでのプレイを余儀なくされるので、ミスが起こりやすくなります。

 

いわゆる「ゾーンをコンパクトに保つ」です。

 

一方で相手DFがボールを持ったときに、味方フォワードがプレッシャーをかけるのを怠ったり、相手の中盤へのパスの配球を怖がって後ろに下がりすぎてしまったら、ラインを上げたままの味方ディフェンダーとの距離が必要以上に短くなる=相手からしたら、より短いパスで、ラインを上げたディフェンダーとキーパーとの間にボールを送ることが出来る、という危機にもさらされます。

 

「スルーパス」とか「裏に抜ける」とかいうやつです。

 

メリット、デメリットを考えて、ラインを上げるか下げるかは結局は監督次第となるのですが、裏に送られるボールも雨で滑りやすく正確性に欠けることを鑑みれば、他に加味する要素が無い限り、「ラインを上げる」方が多数派でしょうか。

 

そしてやはり、我がチームもディフェンスラインを高い位置で保つ選択をしました。

好戦的です。

 

この「ラインを高くする」には二次的な効果が精神面にもあって、鳥瞰図で見るところの選手たちの配置と同じく、選手の気持ちやチーム全体の空気も、いい意味で前がかりになりやすくなります。

その証拠に、守備の要であるセンターバックのキャプテンも声を出すたびに、一段、また一段と闘志あふれる表情に引き締まっていきました。

 

「Stay there! Stay there! Keep it high! Stay high!」

(そこにいろ!下がんな!ライン下げんな!)

 

ノッてます。

その闘争心は闘技場におけるグラディエイタ―のそれです。

 

あくまで僕の個人的な超訳ですが、彼の「Stay high!」にはただの「高く(ラインを)保て!」以外にも、おそらく色々な意味が込められています。

 

「Stay high!」

ビビんな!

「Stay high!」

引くな!

「Stay high!」 

やれ!やっちまえ!

「Stay f**king high!」

生まれてきたことを後悔させてやれ!

 

こんなところでしょうか。

チームもノッてきます。

 

ただし一つ問題があって、前述のとおりDublinerは「ai」音を「oi」音に変えてしまいます。

 

つまり「high」は「ハイ」ではなく「ホイ」になり、正確に言えば、大声で叫んでるので語尾が伸びて「ホーイ」になります。

 

平仮名で書くと

「ほーい」

です。

 

語感から受ける印象というのは当然、育ってきた環境によって異なりますが、「わび、さび」に代表されるように、美意識に対して非常に敏感で繊細な民族の端くれである僕は、やはりこの「ほーい」に、どこか和やかで平和な郷愁心を抱いてしまいます。

 

ほーい。

出自は戦場の「雄たけび」。

しかし出来上がりは牧歌の代名詞みてえなやつ。

もしくはやる気のない返事。

 

「ほーい」

ビビんな!

「ほいほーい」

引くな!

「ほほいのほーい」

そのファ**野郎を****してやれ!

(超訳)

 

同じ皿に刺身とケーキが乗っているような感覚。

どちらに傾けばいいか分からない気持ちは、いつか見たドラマ、「私」を奪い合う男の間で揺れる乙女心のよう。

気持ち悪い。

 

自分で言うのもなんですが、仕事においては超がつくほど真面目で、ある意味堅物のつまらない人間である僕は、猛省してゲームに集中しようとするのですが、ノリにノッてきたキャプテンはとどまることを知らず、時間を追うたびにその頻度を上げ、最終的にはアメ横あたりの年末商戦における冬の季語、「安いよ安いよ」もしくは「買った買った」並みに「ほーい」を乱発してきます。

 

こうなると「BGMとして聞いていた全く知らない言語の歌から急に固有名詞が聞こえてきてそれに反応してしまう」かの如く、パブロフの犬のようにいちいち反応して、そのたびに集中を切らされてしまいます。

 

当然、チームには日本人、どころか母語を英語としない人間が僕以外にはいないので、この困難を誰に訴えることもできません。 

ああ、Radioheadが歌っていた"Don't leave me high"ってこういうことか?

ドンリーミーほーい。絶対違う。

 (Radiohead - High & Dry - YouTube)

 

めくるめく感情の迷子は、雨風の極寒をとぼけるのには好都合でしたが、いや逆に、極寒のせいで頭がどうかしていたのかもしれませんが、いずれにせよ翌日から一週間ほど風邪で寝込みました。

 

ちなみに試合はスコアレスのまま延長でも決着がつかず、PK戦で嬉しくない結果に終わります。

とはいえスコアレスで終われたことは、守備面においては「Stay high」が正解だったことを意味します。

 

結果に関しては、ベンチでコーチがほいほいふざけていたせい、などと自惚れるつもりはありません。

 

勝負とはそういうものです。

 

風邪をひいたのはバチだとしても。