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DubLog

     

インプットとアウトプットのバランス

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先日、珍しく有料のミートアップに参加しました。

といっても参加費がわずか€3の、教師経験のあるアメリカ人が主催者兼先生役の語学レッスンで、ほとんどボランティア活動に近い善意で行われているものです。

 

元教師というだけあってミートアップにしては珍しく授業形式で切り盛りされ、数人のグループで決まったお題でディスカッションするなんてこともありました。

開催場所はミートアップらしく普通のパブですが。

 

語学学校でもそうなのですがディスカッションのお題があまり魅力的でない場合、話がすぐに尽きて代わりにただの雑談が始まります。

 

名前と出身国は最初の自己紹介で済んでいるので、話に上るのは「ダブリンに来てどれくらい経つか」「仕事は何か」「どこに住んでいるか」といったところです。

 

住居の話になったときにグループ内のスペイン人が「同居人のイタリア人がうるさくて夜眠れない」とこぼして、それきっかけで迷惑なフラットメイトの話に転じました。

 

今の僕のフラットメイトはリーアム・ニーソン似のクロアチア人もサミュエル・L・ジャクソン似のゲイもとてもきれい好きで常識をわきまえている、同居にはありがたい好人物ですが、そのスペイン人が「今までにフラットシェア、ルームシェアで困ったことはないか」と聞いてきたのでロンドン時代の話を彼にしました。

 

ロンドンで初めて住んだフラットでは5部屋を10人でシェアしていて、その内訳はスペイン人女性が3人、コロンビアの女性4人、ゲイ1人、中国人男性1人、そして僕というものでした。

 

元々はもう一人いたコロンビア人とルームシェアをしていたのですが、彼が退居した数日後に語学学校でも同級生である中国人がストーカーのように引っ越してきて、そこから彼が僕のルームメイトになりました。

 

後に分かったのですが、元々はマナーの悪さが原因で一度そのフラットを追い出された身であり、管理会社と他のフラットメイトと本人の家族(イギリス人と結婚した叔母がいる)との間でもめて、もめたにもかかわらず、よほどその場所に思い入れがあるのかお金で解決しての再入居だったらしいです。

そのたくましさは尊敬に値します。

 

ちなみに彼は埼玉生まれの埼玉育ち、当然日本語が堪能で、うっすらとハゲちゃびた頭が30代後半の可愛らしさを香らせるが本人いわく30歳ちょうど、という男でした。

 

もう一つ特筆すべきなのは、ギャンブル依存症でいつもカジノでスっていて、従兄弟やバイト先の先輩はおろか、たまに僕にまで金を無心していたというところです。

貸しませんでしたが。

 

同居人たちから苦情が殺到したくらいですから日常生活においてもやはりユニークな男ではありましたが、中でも特に牢名主的存在のコロンビアーナ(コロンビア人女性)が

「一番の被害者であろうルームメイトのあんたが直接管理会社に彼を追い出すようにお願いしてくれれば全部うまくいくのに」

と、いつもヘラヘラしてるだけの僕に文句を言うくらい毛嫌いしていました。

 

とはいえこの彼女はその管理会社でアルバイトをしているという複雑な立場であり、だからこそ牢名主でもあるのですが、同居人全員に目を配っていて、時に親身に接し、時に神経質に監視をしていました。

 

そんなある夜のこと、リビングでくつろいでいると牢名主が話しかけてきました。

 

「今日、ウェイ(中国人:仮名)のこと見た?」

「んー たぶん見てない」

「最後に見たのいつ?」

「んー 昨日の朝方、バイトから帰ってきて・・・そこまでは覚えてるけど何で?」

「来月分の家賃のことで話があるんだけどケータイが繋がんないの」

「パウラ(牢名主:仮名)のことが怖くなって夜逃げしたんじゃないの?」

「だったら超ハッピーだけどね」

 

こんなふうにじゃれ合った数十分後、直だったか叔母経由だったか記憶は曖昧ですが、どこかで何かを「壊した」という連絡が警察から来た、という報告をパウラから受けました。

 

ゴシップ好きの他のコロンビアーナたちやゲイも嗅ぎつけて、目鼻立ちのいい話題に、ああでもないこうでもないと口角泡を飛ばして一緒にはしゃいだ後にそれぞれの寝床に就きました。

 

が、ちょうどまどろみかけた頃、時間にしておそらく数十分後、誰かが僕の部屋をノックします。

夜中にドアをノックされるのは初めてのことで、ちょっと驚きながらも返事をすると

「パウラだけど、開けてもいい?」

とパウラの、しかしよそ行きの声が聞こえてきました。

 

そもそもパウラはハスキー、というより若干ダミ声で、牢名主の名に恥じず性格も多少じゃじゃ馬的なコでしたので、まずそのしおらしい声色に違和感を覚え、そこにやや桃色の響きが無いと言えなくもない、いかがわしい湿度というか汗ばんだ体温みたいなものを感じ、僕は返答までのわずか2、3秒の間に長い逡巡と熟考の独りよがりにおちいりました。

 

パウラ?何でパウラ?こんな夜中に何でパウラ?あ パウラこの部屋俺しかいないこと知ってる たぶんさっきの電話でウェイが今日は帰ってこないという情報まで仕入れたんだ これが夜這いってやつか さすが南米人まあ積極的だこと パウラそんなにタイプじゃないんだよなー いやよく見るとかわいいかも あ しまった俺ゴム持ってない それとも夜這いしに来るくらいだからパウラが持っ「いーよー開けて―」

 

ドアが開くとそこにはよそ行き顔のパウラと、警察官が3名立っていました。

何やら堅苦しい書類を見せて、何やら僕の同意を得て、あれこれ家探しが始まりました。

 

家宅捜索です。

 

ウェイのノートパソコンやデータの類は全て回収され、それでも事足りず僕のスーツケースやクローゼットの中まで調べます。

それと僕も、主に彼との関わりについて色々と質問されました。

 

ちなみにウェイが何の犯罪に関わったのか、あるいは巻き込まれたか尋ねましたが、法律で教えられないとのこと。

彼らの仕事ぶりを記念に写真に収めようとしたら怒られました。

 

初めての出来事に多少なりとも興奮していたのですが、ガサ入れも終わり警官たちも家を後にすると、今度はパウラを含めたゴシップ好きのコロンビアーナたちとゲイが僕を連れてリビングに集合します。

 

「何言われた?」

「何持ってった?」

「ウェイが何やったって言ってた?」

 

答えられる限りのことは答えてあげて、そこからはみんなで推理大会です。

 

「そもそも『壊した』って何をよ。どこでよ」

「何でパソコンとデータを持ってったの?あいつ、何者なの?」

「今、あいつどこにいるの?警察?叔母さんち?」

「そもそも生きてるの?」

「事件なの?事故なの?加害者なの?被害者なの?」

 

まるで文化祭前夜のように神経が高ぶった男女とゲイが喧々諤々やり合っていたのですが、上の階のスペイン人女性の一人に

「うっせーよ!こっちは明日もはえーんだよ!」

と叱られたところでこのオフザケはお開きになりました。

 

それぞれの部屋に戻るとき、去り際にパウラが小声で言った

「彼、テロリストってこともあるんじゃない?」

という言葉にはみんな最初は一蹴しましたが、

「どうして違うって言い切れるの?明日から別の仲間が家の前をうろついて監視でもし出したらどうすんの?アタシ怖いよ」

と我々の不安をイタズラに煽ったので、イギリスというお国柄、テロの脅威は日本や南米よりもずっと身近に感じられたこともあり、翌日以降しばらくの間、尾行と監視を気にしながら帰宅するという、恋愛におけるそれとは比べ物にならないほどマヌケな自意識過剰をさらしながら生活することになりました。

 

ちなみに叔母家族が彼の荷物を引き取りに来たので、以来ウェイとは会っていないのですが、数週間後に警察からウェイ宛てに届けられた手紙を「どうせいねーし」とコロンビアン・ゲイが躊躇なく開封し、ウェイはクレジットカード詐欺で捕まったことが判明しました。

 

いわゆる警告状みたいな内容のその手紙から「今後6か月間、あらゆるカジノへの出入りを禁止」されていることを知り、人様からくすねたカードを使ってカジノで遊ぼうとしたところ、バレて暴れて何かを壊したのかな、くらいの想像は付きましたが、いずれにしてもテロリストでなかったと判断し、みんなで胸をなで下ろしました。

 

ちなみにその手紙の内容から彼の年齢が20歳であることを知り、みんなそっちにより驚きました。

 

ちなみに彼の後に僕の部屋に入居したインド人も、告知無しで逃げるように出て行ったため、またパウラのイライラを買い、

「あんたのルームメイトになるヤツって変なのばっかだね」

と八つ当たりのように言われましたが、僕自身、思うところが無くもないです。

 

サラリーマン生活最後の年、僕は2ルームの社員寮で気の優しい先輩と一緒に暮らしていたのですが、一階に位置するその部屋が、ある日空き巣被害に遭いました。

 

仕事からの帰宅後、見ようとしたDVDはおろかプレーヤーまで見当たらなかったので、先に帰宅して寝転がりながらテレビを見ていた隣室の先輩に

「おまえ(当時、先輩を『おまえ』と呼ぶ非常識な社会人でした)、俺のDVDプレーヤー持ってってないよな」

と聞くと

「知らないよ」

と言いつつも、寝床のマットレスから起き上がり、トランクス一丁で僕の部屋に、先輩は確認しに来てくれました。

 

「な、見当たらないよな」

「うん、見当たらないね」

「まさか空き巣ってことはないよな」

「まさかー」

 

と言いつつも念のためガラス扉を確認するため、彼が部屋に戻ると

 

「あ、ガラス割れてる!」

「あ、布団に破片が落ちてる!」

「あ、太ももが切れてる!あ、いってー!」

 

と、これ以外にも「あ」の枕と共にプレステ本体やそのゲームソフト、こちらと同じくDVD等々がごっそり消えている報告が壁越しから聞こえました。

 

警察の到着後、尋問形式で作成した報告書で、無くなったCDやらDVDのタイトルを一つずつ全て相手のお巡りさんに伝えなくてはいけないのですが、

「なあ、おまえから借りたDVDも盗られちゃったんだけど、あれのタイトル何だったっけ?」

「ああ、オーシャンズ11?」

「じゃねーよ。エロDVDの方だよ」

「ああ、(まともな成人男子の間ではまあまあ不人気の)立花里子のー・・・何つったけかなあ・・・題名までは覚えてないよ」

とやり合ったとき、若いお巡りさんが「『その他1点』にしときますね」と恥ずかしがりながら気を遣ってくれたときには追い打ちをかけるように「正確には2点です」と訂正しました。(ちなみに2点とも立花里子)

 

しかしこちらとしては既に報告済みのカンヌのパルムドール作品、「セックスと嘘とビデオテープ」の方が、その中途半端にエロティシズムを感じさせる作品名といい、「俺、こういう文芸作品も観るんですけど」的な芸術家肌を気取りたそうな内容(偏見)といい、よっぽど恥じらいながら報告したのを覚えています。

 

とにもかくにもこちらが帰宅するまで、窓ガラスが割れていることはおろか、太ももの痛みにも気づかない、ちょっと気の毒な同居人だったのですが、世の中の「気の毒(≒アホ)」には彼のような主体派と、僕のような「とばっちり型」がいると僕は思っています。

 

家族をはじめとする「ピュア(≒アホ)」な人たちに恵まれた日常生活を送ってきたことは以前も述べたとおりで、「彼らのようなピュアを受け止めてあげるのは常識的な人たちの使命」と勝手に天からの命を受け止める傾きが僕にはあるのですが、こうした受け入れの心持ちが様々な不都合との遭遇を生んでいる、と考えるのは自惚れすぎでしょうか。

自然、この上なく不便で堂々としたもの 1 - Dub Log

 

一時期流行った自己啓発的な教えに「成功するためには、既にその道で成功している人と付き合い、足を引っ張る人との付き合いは避けなさい」なる市民権を得たものがありますが、過去に育てるべき部下を持っていた元サラリーマンの僕としても散々「整理整頓をはじめとする管理能力の高さは営業力の高さに比例する」と諭していたこともあり、成功の種類にもよりますが、これには同意できるものがあります。

 

ただ同時に「夕方のチャイムが鳴ってもその場の盛り上がりにダラダラと後ろ髪を引かれて家に帰れない子の方が好き」とも部下に告白していて、厄介さやいびつさの中にこそ味わい深い珍重な文化があると思っているのですが、これは我が田に水を引いているだけでしょうか。

いずれにしても部下からしたら「どっちだよ」という話ですが。

 

ただ、あまりにも何でもOKという姿勢でいると、ロンドンの危険地区に住みだし、深夜に羽交い絞め強盗に遭ってipodを盗られたりもするので、バランスには気をつけたいところではあります。

 

いやあれは「受け入れ」とは違う話。

単に不注意が原因。

 

どうせ平均寿命はこれからもっともっと伸びるらしいので、まだまだインプットはOK、という謙虚な心意気でいきたいと思います。

 

 

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