DubLog

     

天才の特徴2

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僕には4人の甥っ子がいます。

そのうちの一人がピュア(≒アホ)です。 

 

家族の恥は誰しも隠しておきたいものですが、彼に対する僕の見方や接し方に対する誤解を回避するために、一族内のルールというか暗黙の了解事項を一つだけ説明しておきたいと思います。

 

我が家には“年下の家族には嘘をついたままでも良い“という共通常識があります。

 

かわいい弟分や妹分をからかって遊ぶためにジョークを言うことがあると思いますが、信じ込ませた後にそれがジョークであることを明かさないままにしておいてもいいというものです。

 

以前にも少し触れましたが(成功の掟 - Dub Log)、僕自身が中一のクリスマス直前までサンタクロースの存在をまあまあ信じていたのもこれに起因しています。

人並みに疑い始めた小学校低学年のころに、家族一丸となって、北欧のサンタクロース協会の新聞記事を読ませたり、NHK教育テレビで流れていたサンタの物語を見せたりして、僕の頭の中を不整理させ、懐疑心を薄めることに力を注いでいました。

 

ちなみに4歳の頃、たった一回きりですがサンタクロースの女性バージョン、”緑のお姉さん“というのもありました。

姉の趣味丸出しのそのイベントは彼女の誘導尋問により、欲しいプレゼントを「ピーターラビットの絵本」に設定され、その誘導尋問の仕方も、超合金のオモチャを欲しがった僕に対して

「サンタと違ってあんまり高いのはダメなの」

という実に小学生がやらかしそうな雑な構成のお祭りでありました。

 

そんな環境下で育った末っ子の僕が甥っ子たちをいじめるようになるのは自然な成り行きで、「ダライ・ラマをダライラーマンというヒーローだと信じている甥っ子がいる」と以前書きましたが(自然、この上なく不便で堂々としたもの 1 - Dub Log)、信じ込ませたのは他ならぬ僕自身であります。

 

これも以前書いたことですが、その甥っ子は去年、月一ペースで吉祥寺から千葉の実家に帰ってくる僕のことを、ブラジル在住だという思い切りのいい思い込みをしていました。

 

週3のペースで実家に来る彼に、せめて日本に住んでいることくらいは理解させたいと思い

「『きち』から始まるところだよ。当ててみ」

ほら、ナウいヤングが「ジョージ」って呼んでるところ、という大ヒントを添えて、僕の当時の住所をクイズ形式で問うてみましたが、

「うーん、わかんない」と、アホのくせして今度は思い切りの悪い返事をします。

 

「何でもいいから当てずっぽうで言ってごらん」

「んー、わかんない」

「あーもう、じゃあ最初の一文字は『き』」

「んー・・・『キク』?」

 

と予想通り二文字目の『ち』を無視した答えが返ってきました。

 

ちなみに彼には仲のいい弟が一人います。

その弟とお絵かき用の紙を取り合っているうちに、右手に持っていた舐めかけのキャンディーが何であったのかを忘れたのでしょう、無事に手中に収めたその紙に、しかしその細さで気付かないものか、鉛筆と間違えてチュッパチャップスの棒で絵を描こうとして5秒くらい気付かない、というかわいい小ボケもありました。

 

その弟と3人で市民プールに遊びに行ったとき、当時小2の彼が25メートルプールで泳ぎたいと言い出したので、僕はまだ泳げなかった年長の弟を連れて、浅い方のプールで横になりながら彼を待っていました。

 

その時に弟が自作の「うんこ太郎」の話をしてくれました。

ネーミングセンスといい構成の雑さといい、実に幼稚園生らしい残念さを感じましたが、オチは“二番目に好きなコと結ばれる”というコメントのしづらいものでした。

 

25メートルプールを満喫しきったお兄ちゃんが僕らと合流した後に、弟が入れなかったそのプールの楽しさを自慢するものだから、弟を気遣って

「こっちだって『うんこ太郎』の話、面白かったよな」

と僕が言うと、プールの係員が催してくれた何かと勘違いしたのか

「え、何?紙芝居?テレビ?何?僕にも教えて!」

とえらく食いついてきます。

 

あんまりハードルを上げても何なので

「違うよ。いくお(弟:仮名)が作った話だよ」

と告白すると

「すごいじゃん、いくお!僕にもそれ話して!」

と食いつきが増しました。

 

結局弟の方が「今話しても面白くないからなー」というわけの分からない出し惜しみをし、兄の方が「いいじゃん、いくお!何でそんな意地悪するの?」というこの文言通りの非常に丁寧なクレームをつけ、どちらが兄でどちらが弟か分からない立場関係に落ち着きました。

 

こんな純粋な彼ですが、世間的には出来る子であります。

甥っ子のことになると、親バカならぬ叔父バカ感あふれるダメな話に決着しそうな香りがするので、普遍性を保つためにここからは極力自分の感想を省きながら、起こった(聞いた)話だけを記していきたいと思います。

 

まず外見に関してですが、彼はよくイケメンと言われます。

3歳の頃、年長くらいの知らない女の子にパン屋で強引にキスをされたことがあります。

当時まだ「壁ドン」という言葉はありませんでしたが、壁ドン、というか両肩を壁に押し付けられてキスをされたそうです。

 

小学校に上がってからは、義姉(彼の母)いわく「ちゃんとした芸能事務所」に2回ほどスカウトされたことがあります。

「タレント」の意味が分からない本人は食指を動かさず、義姉も母(彼の祖母)も「この子に演技は無理」とスルーしましたが、叔父バカである僕は甥っ子をはやし立てます。

 

「やりゃあいいじゃん、タレント。やりたくないの?」

「うーん・・・タレントって何?」

「んーと、テレビ出るんだよ。俳優とかはどう?」

「んー・・・俳優ならやってみたい」

「だろ?俳優になったらどんな役やりたい?」

「んー『戦闘中』に出たい」

 

イマイチ会話の噛み合わなさに、やはり僕も他の家族にならってあきらめました。

 

この春で6年生になりましたが、勉強の方も優秀で、いつもクラスで上位を争う成績を収めているらしいです。

 

運動に関しても万能です。

 

所属するバスケットボールクラブで5年生のうちからチームのレギュラーを取り、長距離走も短距離走も学年一位をずっと取り続けてきた、天から二物も三物も与えられてきたような、アホじゃなかったらちょっと嫌いになりそうな子であります。

 

そんな彼が去年、学校を代表して地域の陸上大会に出場しました。

彼の担当は100メートル走とリレーでした。

 

その100メートル走でのこと。

校内では敵なしの彼が隣のレーンを走る他校の生徒にスタートダッシュで前を行かれたそうです。

 

僕が一時期実家暮らしをしていた頃、週3回のペースで実家にやってくる彼を観察していた限りでは、宿題と習い事以外は基本的に遊んでいるだけの、「頑張り」という言葉からは程遠いところに生息する、天才型の人間だと彼のことを査定していました。

 

その、無欲で年齢の割には純粋すぎる人間性に鑑みても、「ルパン型」の肩の力が抜けた天才タイプだという評価は、我ながら今もなお正しいと思っています。

 

その彼が、初めて他人に自分の前を走られた時、おそらくはパニックになったのでしょう、直線のコースであるにもかかわらず、わざわざ線をまたいで隣のレーンを走るその子の背中を追いかけたそうです。

 

力みのない天才が力んでしまった瞬間です。

ルパンにおけるカリオストロ現象です。

 

かようにして天才が“らしさ”を失って敗北してしまったわけですが、応援に行っていた母いわく「100人以上いる全ての競技者の中で唯一の失格者だった」らしいです。

 

というわけでこの話を聞いた後、男女合わせたそれぞれの種目の優勝者の合計数がおそらく20くらいだということを本人に伝えたうえで

「さすがだな。優勝者はたくさんいるのに、失格はおまえだけだって。オンリーワンだな」

と褒めてやりました。

 

それを聞いて、天才の共通項なのでしょうか、高校生の教え子のように甥っ子は照れ笑いをしていました。

母は嫌な顔をしていましたが。

 

どのみち野心や欲というものがほとんどなく、無駄な力が抜けて成功に終わろうが、力みのせいで不成功に終わろうが、どっちに転んでも形として成り立つ天才たちに、積み上げ型の凡才である僕が羨ましさを覚えてしまった、というお話です。

 

“ルパン色を薄めてもなお「カリオストロの城」に絶賛”に重なるところを見た、と結びたかったのですが、普遍化は見事失敗、結局叔父バカな話に始終してしまったことに対するお詫びで今回はしめたいと思います。

どうもすみません。