DubLog

     

Thicker than water (水よりも濃い 隔世遺伝)

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先日、久しぶりに母からメールが届きました。

今夏にスペインの友人を訪れようと思っているのだが、休みが合えば一緒に過ごさないか、という内容のものです。

  

字面だけだと、なかなか国際的な家族で、僕が海外を身近に置いてしまったのも彼女の影響のように映るかもしれませんが、違います。

 

彼女の初めての海外渡航は、50代後半の頃に年賀はがきで当選したハワイ旅行で、ちなみに初めてスペインを訪れたのは還暦間際のことです。

 

それまで海外はハワイ旅行しか経験していないほぼ還暦の彼女がスペインに「語学留学」したいと言い出したときは家族全員の「ハア???」に続き

「何になりたいの?」

とあきれられていましたが、

「だってしんばっかり海外に行ってズルいじゃん」

という因果の噛み合わない、小学生がよく使う種類の手法で煙に巻いたまま、父を残して3か月の留学に出かけました。

 

大学の効果的な宣伝に就職あっせんの能力を掲げるところが増えて久しいですが、本来の大学の存在意義というのは学問をする(楽しむ)こと自体にあるということを正当とすると、「何になりたいの?」という質問は野暮で「ズルいじゃん」の裏に隠された、“スペインに住んでスペインでスペイン語を学びたい”そのこと自体が動機だったのでしょう。

おそらく母のことが大好きな父は寂しい思いをしたでしょうが。

 

ただ、非常に子供っぽいところがある父は翌年、報復行為に出ます。

本人いわく「ドイツ語が堪能*」な彼はドイツ在住の友人を頼って語学留学を試みるも、先方の都合で失敗、おそらくは全く興味が無かったであろう、前年の母と同じスペインに、やはり前年の母同様3か月の留学に出かけました。

*後年、僕のドイツ人の友人を実家に連れて行ったときに「そこまででもない」ことがバレる。

 

結局、父のスペイン滞在の最後の一か月は、母も渡西して二人で仲良く過ごしたのですが、それのせいで当時まだ存命だった実家の愛犬の面倒を僕が見る羽目になり、予定していた僕自身のロンドン行きが少し遅れる、というトバッチリを受けました。

 

その滞在中に彼女たちが知り合った、スペイン在住の同世代の日本人夫婦と親しくなって、以来毎春、実家にその夫婦が訪れ、一定期間滞在するような仲になっているのですが、この夏は久しぶりにこちらから向こうに訪れてアウェイを楽しもう、という腹づもりみたいです。

 

その母ですが、既に行間からその恥ずかしさが滲み出てしまったかもしれませんが、様々な種類のアホに恵まれた僕の周りの強者たちの中で、最高位に鎮座している人物であります。

 

それのせいで幼少期から被った彼女の迷惑を連ねると恨み節みたいになってしまうので詳細は避けますが、例えば数年前、ロンドンから帰国間もない僕が実家暮らしをしていたときのこと。

その年の誕生日が週末だった僕は、実家に「お泊り」に来ていた例の甥っ子二人と両親の5人で過ごしました。

 

一夜明けて翌日が今度は母の誕生日になるのですが、その朝、ピュア(≒アホ)な方の甥っ子が母に対して「誕生日おめでとう」と言った後に

「誕生日はしん兄ちゃんの方が一日早いけどさ、生まれた年はバアちゃん(母)の方が早いからバアちゃんの方が年上だよね」

という、誰から誰が生まれたかは考えていないアホ(≠ピュア)な発言が出ましたが、朝なのでツッコみませんでした。

 

ただ、土曜の朝っぽい、ホットケーキ的な朝食を終えかけた時、ちょっとした騒ぎが起こりました。

 

大食いで早食いの甥っ子が食事を終えてデザートに移ったとき、好物なのでしょうか、そのデザートのゼリーをスプーンですくって

「ああ、ゼリーおいしいなあ。でっかいゼリーのプールに飛び込みたいなあ」

と陶酔しながら、それを右の目元まで持ってきてゼリーを覗きこむようにしていました。

凡人である僕と父と弟の方の甥っ子はこれくらいのことはスルーします。

 

ただ、その時に母がイタズラをしてそのスプーンを押しました。

思いのほか強く、それが甥っ子の目元に突き刺さります。

甥っ子は瞬間的に叫び声を上げ、目を押さえてうずくまります。

 

甥「うーーー」

母「わあ!ごめんごめん!違うの!わざとじゃないの!」

甥「うー、いったー」

母「違うの違うの!こうやってちょっと押して、ビックリさせようと思っただけなの!」

甥「うー、ひどいよ、バアちゃん、なんでこんなひどいことするの?」

母「だから違うの!ぶつけようとは思ってなかったの!」

甥(弟)「バアちゃん、ひどーい」

父「バアちゃん、ひどーい」

 

朝から賑やかな食卓です。

 

“バカの定義の一つに、他人を喜ばせるために頑張った結果、裏目に出て、誰も幸せにならない、というものがある”という内容のことを随筆家の著書で学んだ記憶がありますが、とはいえ少なくとも僕はこの時、笑っていたので、彼女はバカではなく「気の毒(≒アホ)」の類だと、親族ならではの甘めの採点をしています。

 

精神的には癒しや感謝などに対してマザコン気質なところがありますが(罪と罰と罠 - DubLog)、実際の付き合いとしては希薄で、年齢の割に親孝行が足りていないというところと、おそらく老後の面倒は見ないであろう自分の薄情さを打算して、借金返済と先払いの両方のような気持で、夏休みを一緒に過ごすくらいのささやかな孝行くらいはしてあげようかと思っています。