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DubLog

     

魅惑のアジアンビューティー

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アジアの魅力 - DubLog

後から聞いたセイジの話によると、僕は式の段階で既に「ロックオンされていた」そうです。

  

「ほら、俺らの後ろにいきなりきれいな人が来て、何の躊躇も無く普通に座ってたじゃないっすか。覚えてます?あれが『彼女』ですよ」

 

式が始まったばかりの頃、遅れて入ってきた女性が僕の斜め後ろに座り、3人掛けの長椅子に余裕を持って座っていた日本人の知人カップルを少し詰めさせていました。

前日の食事会で日本人の出席者は全員見知っていたので、このコが台湾人であることはすぐに認識できました。

 

もっと余裕を持って座れるところが他にもあるにもかかわらず日本人の群れの中に堂々と一人で入り込んだ違和感と、美人が近くに来たことに対する非モテ特有のルンルン気分を多少は持ちましたが、実は僕はその時、一瞥をくれただけで、それが「彼女」であったことを後でセイジに言われるまで思い出せませんでした。

その時はタツヤの緊張している様子(この時点ではまだ泣いていない)を写メに収めるのに必死だったからです。

 

「あの時の美人が彼女ですよ。あん時俺、シンさんと席変わったじゃないっすか。あれ実は、他にもあのクラスの美人が俺らのところにも座るかもしれない、と思って変わったんすもん」

 

てっきり、バージンロード側に陣取ったセイジ越しに写真を撮るのを僕が鬱陶しそうにしていて、それを気遣った「席、変わりましょうか」かと思っていましたが、後ろの席のように詰めれば壁側に出来るスペースに新たな美女が来るかもしれない、という、やはりこちらも非モテらしい野心を抱いての提案だったとの告白です。

 

結局彼の思惑は空振りに終わり、誰も来ないまま式が終わったことを思い出して

「やっぱ、彼女がちょっと特別だったんすよ。もうあの時からシンさん、決め打ちされてたんすよ、きっと」

とセイジは言いました。

 

さて、その「彼女」と実際に初めて言葉を交わしたのは、式も披露宴も全て終わり、別の台湾人の女のコたちとの会話を楽しみながら、式場から離れた我々のホテルまでの交通手段などを考えていたときのことでありました。

 

ホテルから徒歩1分のところに自宅があるお義父さんは帰りも乗っけてくれるのかな、でも帰りも新郎新婦と一緒って嫌だなーなどと思っていると、その美女がお手本のような片言の日本語で話しかけてきて、お互いの自己紹介もろくに済んでいないうちに

「帰り―、どうやって帰る?タクシー高いー、私の車、乗りませんか?」

と提案してきました。

念のため訳しますが「タクシー代もバカにならないし私の車で送ろうか?」です。

 

ありがたい申し出を素直に受け入れて、僕とセイジは彼女の車に乗り込みましたが、運転は彼女ではなく若い台湾人男性でした。

「披露宴で知り合ったばかりだが、お酒を飲んでいない彼にお願いして自分は好きなだけ飲んだ」そうです。

 

少しだけ日本語がわかる親日家の彼に「何て優しい人なんだ!」と僕らが褒めると

「でもこれ、私の車。彼、運転する。タクシー代、要らない。これ、トリヒキ」

と、難しい言葉を使って嫉妬します。

 

「そもそも彼は式場までどうやって来たの?」

「お兄さんの車」

「お兄さん?」

「彼のお兄さんも結婚式に来た。お兄さんと一緒に来た」

「お兄さんはどうしたの?」

「結婚式終わってお兄さんの車で一人で帰った」

「じゃあ、取引じゃねえじゃねえか!ヤンさん(運転している彼:仮名)、超いい人!もう、すっごいいい人!」

 

これで気を悪くしたのか、矛先を変え、「でもあなた、私があなたに話したから私の車に乗る。タクシー払わない。あなたとてもラッキー」と我々に恩を売り、感謝を求めてきて、我々もそれに素直に応じて「シェイシェイ」と返しました。

 

しかし最初の印象よりも日本語が通じない二国間コミュニケーションにおいて会話が途切れるたび「あなたラッキー」を繰り返し、「ラッキー」のごり押しというか押し売りというか下手な洗脳を受けている気分になりましたが、若いのに謙虚に微笑み続ける運転席のヤンさんの好青年っぷりを考えると、まさかこれを台湾の国民性だと受け取るような無礼はできず、僕はただ単に彼女の言動にアバズレの風味を嗅ぎ取っていました。

つまり僕好みです。

 

車中では外見の綺麗さには似合わないその積極性をいかんなく発揮し、言葉が通じにくい分、ストレートに僕の連絡先を聞き、ストレートに夕食に誘い、こちらもそれをストレートに喜んで応じることにしました。

 

知人女性たちに言わせると、女性の言動に対して理解力の低さを持ち、尚かつ女性に対して諦めの良さを持つ僕は、女性の駆け引きやハッタリをそのまま真に受けてしまうことが多いので、その駆け引きやハッタリが女性にとってはありがたくない結果に終わることが多いそうです。

そういう意味でも、右のストレートしか出してこないボクサーみたいな気質の彼女は僕にとっては魅力的でした。

 

そしてホテルに着き、ひとまず彼女と別れ、ラフな格好に着替えます。

この後、実際に開かれるのか微妙な二次会(何故ならタツヤ任せだから)に出席するというセイジと部屋のもう一人の同居人、タツヤの学生代の友人のマモル君とは二次会で遅れて再合流することを目標に、僕は一人でサンダルをつっかけたまま彼女とのディナーデートに出かけました。

 

僕のホテルまで迎えに来た彼女とは「お酒を飲むから」ということで、バスで繁華街に移動します。

 

小さな焼き肉屋でのディナーそのものは、やたらと写真を撮ってすぐさまフェイスブックに上げること以外は特筆することもなく、ノーマルな恋愛感情と下心が生まれた、実に楽しい二人きりの時間でした。

 

遠目から見ていたという、披露宴が終わった直後に僕が若い台湾人女性たちと話していた様子について嫉妬心も見せていましたが、これもかわいいものです。

 

「あのコたちたぶんあなたのこと好き。でもあのコたちとても若い。あなた若くない。変。おかしい」

「違うよ。彼女たちは日本語を勉強してるらしくて、日本人と話したかっただけだよ」

「でもたぶん彼女たち日本語全然上手じゃない。私の方が上手」

 

嫌悪感よりもむしろアッパレ感の溢れる、一点の曇りもない言いがかりの前では「あなた若くない」もツッコミどころとしてはか弱くかすんでしまい、今まで訪れたどの国でも出会えたことが無いレベルの、彼女から感じる自己愛の強さも尊敬に値し、彼女に対する興味も増してきます。

 

というわけで食事の終わりかけ、「この後どうする?」と聞かれた時には、彼女に対する興味と恋心と下心を丸出しにして、会話の中で知った、一人暮らしをしている彼女の部屋に行きたいと申し出ましたが「部屋、汚いからダメ」と優しく断られた代わりに「シンの部屋に行こう」と言われました。

 

「あ、言ってなかったけど俺の部屋、3人部屋だよ。セイジとマモルっていうもう一人の友だちが一緒なの」

「んー、別にいい。今日はみんなで飲む。みんなで楽しむ」

 

切り替えが早いのか、そもそも「シンの部屋」に行ったところでそんな気は初めから無かったのか、いずれにせよこの発言から感じ取れた彼女の公明正大な態度に、自分のいかがわしいピンク色の想いを恥じ、僕も素直に従いました。

 

そして、ホテルへと戻るのですが、その道中のバスの中で些細なざわつきが起こります。

 

僕らしか待っていなかった停留所にバスが到着して、それに乗車した直後、僕がイメージする限り最も典型的な中国人のゴロツキが乗り込んできました。

ガタイがよく皮膚が浅黒く目立つ柄のシャツを胸がはだけるように着て、匂いから判断するにアルコールをたくさん浴びたのでしょう、目も虚ろです。

 

そしてそれ以上の感想を持つ前に、彼は僕のツレの彼女に向かって何やら話しかけてきました。

話し方もまんま酔っ払いのそれだったので、最初は絡まれているだけなのかなとも思ったのですが、彼女の反応が穏やかではなく、そのままバスの中で口論が始まりました。

 

あれ、ケンカかな。ひょっとしてカレシか旦那かな。それとも美人局かな。美人局だとしたらちょっとタイミングが早すぎるよな。乗客が少ないとはいえ一応公共の交通機関だし、ここ。

 

などとアホなことも考えましたが、男の方はともかく彼女の声が荒れてきたので、僕は少し心配になって彼女に声をかけました。

 

「大丈夫?ただの酔っ払い?」

「大丈夫。この人、友達です」

「**************!」(中国語で口論)

「ホントに大丈夫?何か嫌なこと言われてる?」

「大丈夫!この人、友達!」

「**************!」(中国語で口論)

「ホントに大丈夫?」

「大丈夫(だ)からそこ(に)座って(て)!」

 

このパターン、ロンドンでの韓国人の時と全く一緒です。

男が僕の方には一切文句を言わないのも一緒です。

(愛すべきアバズレたち - DubLog)

 

しかしやはり大丈夫ではなかったのでしょう、助けを求めたのかクレームを付けたのか、彼女は運転手にまで何かを大声で訴えはじめ、数少ない乗客の全員も我々を注目していました。

 

後から彼女に聞いたところによると、以前から彼女を口説いていた妻子持ちのこの男が、たまたま見慣れない男と一緒にバス停に立っていた彼女を見て、嫉妬からか、とっさにバスに乗り込んできたそうです。

 

運転手への訴え辺りでいったん落ち着いて、男から少し離れた場所に座り直すと、男もそれ以上は何も言ってきません。

彼女はその間、「あの人、ちょっと頭おかしい」を僕に繰り返していましたが、男の嫌がらせの内容と彼女の激高の理由は教えてくれず、彼女の素性を含め、たぶん知らない方がお互いにとって幸せなことがたくさんあるんだなと思い、僕も何も尋ねませんでした。

 

そしてやっと目的のバス停に到着して下車すると、予想はしていましたが男も我々を追うようにバスを降りてきます。

 

それを確認して彼女は「走って!」といって僕の手を握りました。

 

(つづく)

 

 

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