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魅惑のアジアンビューティー 3

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セイジと僕の帰国便は両方とも翌早朝のフライトだったため、元々その日は宿を取らずに深夜営業している酒場かどこかで時間を潰してから、深夜過ぎに発車する空港行きの高速バスに乗ろうとしていました。

 が、朝方タツヤ夫婦が我々の部屋に来た時に、彼女がチュンメイ(タツヤの奥さん:仮名)と話をしたところ、深夜までのわずかな滞在にもかかわらずお義父さんがもう一泊分の料金を既に払ってくれていると言っていた、とのことで、僕らもその好意に甘えようということになっていました。

 

しかし彼女の誤解だったのか、ホテルのフロントで結果的にはそうではないことが分かり、そしてこれに対して彼女が著しく腹を立てました。

 

たぶんこの考え方が一般的だとは思うのですが、自分以外の誰もその部屋の精算をしていないのであれば、自分でその代金を支払うか、もしくは部屋の利用を諦めるかのどちらかだと僕は考えています。

そして僕らは元々の予定通り、ホテルを出て、遅くまで開いている店を探そうとしました。

 

しかし彼女の言い分としては

「日本からわざわざ来訪した客人をきちんともてなすべき」

とのことで、この筋合いと道理のみで、逆にお見事というくらいに激高した彼女は、こちらも既に日帰り観光から戻ってきていたタツヤ夫妻をホテルに呼び出して、フロントでチュンメイと口論を始めました。

 

中国語でまくし立てる彼女に対してチュンメイも負けてはいません。

だって悪くないんだもの。

それを見てオロオロするだけのタツヤでしたが、僕とセイジは旅中で味わったアレコレで疲弊しきっているので助け舟は出しません。

あーあ、新婚なのにかわいそう。

 

どう考えてもこちらが引くしかない状況下、さすがの女王にもそろそろ疲れが見えてきのか、今度は泣き出し、僕とセイジは重たい腰を上げて最後の力を振り絞って、彼女をなだめました。

 

「じゃあ、バス(の時間)までどうする!?うちはダメ!汚い!」

「だからどこかで時間潰すから心配しないで」

 

そう言う僕に対して、きっと人目の付かないところで落ち着いて最後の時間を楽しみたかったのでしょう、「もう、うちに来る。嫌だけどしょうがない」と言って、結局3人で彼女の部屋に向かうことになりました。

 

前日のストーカーの件といい、プール付きのマンションに住んでいることといい、この性格といい、言ってはいませんでしたが現在は働いていないことといい、僕は彼女に対して過大評価とも思える甘い空想を膨らませていました。

 

「汚いから」というのは当然ただの口実で、部屋に入ったら、例えば旦那さんか誰かしらの男と一緒に住んでいる形跡があるとか、この高級マンション生活がアンダーグランドな仕事で築き上げた財力が礎になっていて、その痕跡が部屋から窺えるとか、もしくは前科持ちであるのがバレるとか。

 

マンションに着き、エレベーターを上がって部屋の前まで来ると、向かう車中で約束させられた通り、僕とセイジはそこでしばらく待たされました。

「少し片付けたい」とのことです。

 

どうぞどうぞ、見られたらマズいものは好きなだけ片付けなさい、ともうここら辺ではこちらもすっかり疲れ切っていますから、空想はするものの半ば投げやりな反応になり、大人しく廊下で1分ほどの時間を待ちます。

 

そして「汚いけどどうぞ」と珍しくしおらしい表情に変わった彼女が開けたドアの先には、直球的に汚い部屋が広がっていました。

このシリーズ、二度目のスカシです。

 

ただ、字面の上ではただのスカシであるものの、その「汚い」のクオリティというか水準は、テレビ取材が入れるくらいのレベルのもので、例えばその昔、僕が高校生だったころ溜まり場にしていた同級生宅の、乱雑にばらまかれたエロ本、エロビデオ、どっちの用途でのか分からない使用済みのティッシュ、煙草の吸い殻だらけで、あまりの不快感に、仲間の訴えを一切受け付けず、僕がせめてもの思いでそこを禁煙にしたくらい不潔で不快だった、これ以上の部屋にはもう二度と出会えないんだろうな、と思っていたあの部屋のパンチ力を意にも介さず一撃で撲殺するような威風堂々の暴君感を思わせるものが彼女の部屋にはあり、足の踏み場が無いとかいうのはもはや最低限の出場資格みたいなもので、台所や洗面所に新種のカビが生えているかもしれ・・・・・・長くなるので止めます。

 

一つだけ言いたいのは1ルームや1DKなどではなく、先述のとおり3LDKであるにもかかわらず彼女が契約している敷地中、床面積中、隈なくそのクオリティを保っていたということです。

いったい何を片付けたの?

 

ホテルのフロントや車中で「本当に部屋、見せたくない」と泣いていたのが理解できました。

そしてそこまで嫌なら何故見せたのか理解できません。

 

が、とにかく部屋に入ってしまった僕が最初に起こした行動は、部屋を出ることでした。

誇りやカビに対してのアレルギーを持っているデリケートな僕はクシャミと鼻水が止まらなくなり、持参していた鼻炎薬をすぐに飲んでから、近くのコンビニにマスクを買いに行こうとしましたが、一人での外出は彼女に許してもらえず、彼女の運転で24時間営業のスーパーへとマスクを買いに行き、そしてまた部屋に戻されました。

 

その後、彼女からシャワーを浴びるように言われ、アレルギー反応が少しでも治まればと思い、バスルームへ向かいますが、予想通りサンダルは脱ぐことのできないレベルの床コンディションでした。

続いてバスルームへ向かったセイジが出てきた後、その不衛生さを共感しようと思ったら、「よくあん中で浴びれましたね。俺は(彼女を怒らせないために)蛇口をひねって浴びているフリをしただけです」とセイジは言いました。

なるほど、よく見れば濡れていると思っていた髪は整髪料でテカっているだけです。

 

と、このようなあまりの高水準に、抑えていたSっ気が少しばかり顔を覗かせてしまい、部屋の不衛生さについて彼女に説教すると、またもや彼女は泣きだして、泣きながら焼け石に水的な掃除を始めました。

 

その様子を見てセイジは「かわいいとこ、あるじゃないですか」と笑い、しかし彼女は泣き声を止めることなくほうきを掃き続け、僕は悪い癖でその場面を客観視し、鼻炎薬による眠気とマスク内に暖かく籠る自分の吐息にまどろみながら、きったないソファーで一人、天井を見上げたままその滑稽さに黄昏てしまいました。

 

とはいえそんな一人老衰を彼女が許してくれるわけもなく、僕が慰めるまで意地でも泣き声を上げ続けます。

 

「ここ私のウチ!私買った!私のもの!何で文句言われる!?」

と至極真っ当な主張も出てきます。

がしかし、まだ泣き続けます。

セイジは笑っています。

 

終いには、そこまで巻き戻したか、「チュンメイが悪いー!!」とタツヤの奥さんへの例の、ザ・八つ当たり、もしくはジ・言いがかりも飛び出します。

そしてセイジはまた笑っています。

 

分かってはいたけど最終的にはこちらが根負けをし、思う存分抱きしめて慰めてあげました。

この場合はね、タツヤの嫁も、泣いているキミも、文句を言った俺も、たぶん誰も悪くないんだよ。

 

とは言えませんでしたが、そうこうしているうちにバスの出発時間も近づき、途中4割方は本気で「このコ、作為的に俺たちの便に間に合わなくするように企んだりしないかな」と話していた心配も杞憂に終わり、何かと迷惑をかけたセイジにせめてもとチケット代を払い、我々は無事にバスに乗り込みました。

 

窓の外、僕らを見送る停留所で、彼女がまた泣いています。

「かわいいとこ、あるじゃないですか」

とセイジがまた言います。

僕は否定しませんでした。

 

「いやあ、楽しかったっすわ。初海外旅行」

ともまた言いましたが、こちらも今回は否定しませんでした。

 

帰国後すぐに、施設で暮らす祖父の見舞いとサーフィンを楽しむという目的で宮崎に飛んだのですが、滞在3日目あたりで大風邪をひいてしまい、2週間近い滞在のうちの半分以上を高熱との闘いのため布団の中で過ごし、楽しみにしていた海には一回しか入れない、という残念を味わいました。

分かっています。バチです。

 

もちろん体調不良で苦しんでいる間も、交換していたラインで彼女からの連絡がひっきりなしに来ます。

分かっています。バチです。

 

チュンメイと彼女のケンカはその後も続いたらしく、というより部屋の汚さを僕に説教されたことを根に持った彼女が、またもチュンメイに文句を言ったところからそのケンカが再燃し、最終的にはチュンメイが祝儀を彼女に返して縁を切る、という行きつくとこまで行っての決着になったそうです。

 

このことはタツヤからも同じくラインで報告を受けていて、新婚の夫婦を気遣う意味も込めて僕は

「気にするな。あのコがちょっと変なだけだから。お前は全面的に奥さんの味方になれ」

という旨の文章を送りました。

 

翌日、その文章を一言一句違えずに、そりゃそうだ画面を写メしたものだもの、僕が彼女をディスった逃れようのない証拠が彼女の方から送られてきました。

 

「『変』ってどういうこと!?」

 

ライン上での激怒の後、電話もかかってきます。

こちらは高熱です。

ベストコンディションでも女性と口論して勝てたためしがないので、この怒りは後日、タツヤにぶつけようと思い、体調不良の中、ただ黙って受話口越しの彼女の怒りを延々と浴び続けました。

 

そして実際に都内でタツヤに再会した時にそのことに触れたら

「俺だってチュンメイに怒ってますよ!俺がシンさんのラインを勝手に見せるわけないじゃないですか!チュンメイが勝手に俺のケータイ開いて、シンさんもこっちの味方だってアピールするために勝手に送ったんですよ!」

と、どこに出しても恥ずかしくないくらいのお手本のような逆ギレをかましていました。

 

俺はおまえらのその夫婦関係も含めて怒っているんだよ。

いいなあ、アホって。

こういう時、便利だなあ。

 

チュンメイも含めて台湾の女性はとてもエキサイティングで魅力あふれる美人ばっかり、と思いましたが、そうでもないおしとやかな台湾人女性に知り合いがいることを考えるとあながちこの物言いは失礼に当たるかもしれません。

 

いずれにしても、ここはハッキリさせておきたいところですが、運転手のヤンさんのような好青年っぷりといい、チュンメイのお父さんの好人物っぷりといい、それ以外の全ての台湾人知人の朗らかさといい、アバズレであろうとなかろうと、彼女を含めた台湾の方々が僕は結構好きです。

 

 

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