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違いを見せた大国の「人類みな兄弟」

サッカー 純粋な人 追憶 国際問題

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○○(国名)人って○○なところがあるよね。

 

という、主にネガティブな見解を持ったセリフが海外在住者や海外在住経験者からよく聞かれます。

この話題が上がる時、水を差したくないので相手の話すままに任せますが、実はこの決まり文句があまり好きではありません。

 

その国の政治やメディアがやっていること、やろうとしていることから、与えたい印象が見え、逆にそれによって透かし見える浅はかな作為に嫌な気持ちになることもありますが、その国出身の友人が何人かいて、その友人たちと少しでもプライベートな話をすれば、当たり前のことなのですが、キャラクターは人それぞれ、ということが分かると思います。

 

僕は日本が大好きですし、日本が誇る、そして諸外国に自慢したい「日本人らしさ」というものがどういうものであるのかをある程度理解しているつもりです。

そして悪い意味で、日本人らしくない日本人、僕にとっても嫌いな日本人を何人も知っています。

 

逆に最も仲の良い友人の中にブラジル人やフランス人がいますし、過去に最も尊敬した上司の一人に韓国人がいます。

彼らは日本が誇る日本人らしさのようなものを持っていましたが、それは日本人である我々の勝手の言い分で、彼らからしたらただの個性でありますし、ひょっとしたらブラジルらしさ、フランス人らしさ、韓国人らしさといったものかもしれません。

 

とは言え、過去には僕もこの類の偏見をふんだんに持っていました。

一カ国目の海外在住者や経験の浅い海外滞在者が陥りやすい傾向かもしれません。

 

最初に断っておきますが、今回は偏見に関する高尚なお話ではありません。

地球の裏側でもみんな言うことは一緒なんだな、ということと、やっぱり本場は凄いな、という、どちらかというと低俗な話です。

 

僕は19~20歳にかけての一年間を、初めての海外、ブラジルで過ごしました。

村と呼んでも差し支えないような小さな町でサッカー留学をしていました。

 

出不精はその時から変わらず、試合や用事以外で町を離れたことがなく、せっかくブラジルに居たのに観光地には一切出かけず、恥ずかしながらリオのカーニバルを見たこともいまだに一度もありません。

 

そんな暮らしぶりだったので、付き合いはその小さな町内のみに限られ、男の知り合いのほとんど全てが同じサッカークラブの寮で生活するチームメイト、女の知り合いはそれを取り巻く若いコたち、という状況でした。

 

ロンドン、ダブリンで、当然それ以外のたくさんのブラジル人たちとの出会いを経てきたので、つい最近日本人女性に言われた

「ブラジル人って大人しくてきちんとした人が多いよね」

というセリフに、今でこそ、彼女がその見解を持つのも理解ができるくらいの幅は持てるようになりましたが、約20年前の僕の初めてのブラジルは非常に狭いブラジルで、ひょっとしたら特殊な人間たちの集まりであったせいか、当時の僕は別の見解を持っていました。

 

ブラジル人男性の約10割がスケコマシであり、ブラジル人女性の約9割がアバズレである、という見解です。

 

実際に、その当時、学校前の通りに夜になると若者たちが毎晩のように集まって、ただお喋りを楽しんだり、そのまま近くのバール(と言っても日本やスペインにある、あんな小ぎれいなものではない。夜になっても開いている、そして勝手に歩道にテーブルと椅子を並べている、駄菓子屋みたいなもの)に行ったりしていたのですが、なかなかの頻度でうちの選手たちが若い女のコをお持ち帰りしていました。

 

「あんなきったねえ所でよくヤれんな」という感想を持ち得るくらい汚い寮の倉庫での情事や、どこどこの宿がいくらで泊まれる、という話がよく飛び交っていました。

僕自身もその夜の集まりで知り合ったコたちにセックスやお付き合いのお誘いを受けたことが何度もあります。

 

「ブラジルに行ってブラジルの女にはまると大抵途中で落ちこぼれる」

ということを何の根拠でなのかは分かりませんが、日本出発前に先輩に言われたことがあり、それが怖かったのと、何より日本に遠距離恋愛中の恋人がいたので、彼女を理由にせっかくの申し出を断ったところ

「じゃあブラジルにいる間、アタシと付き合って、日本に帰ったらまた彼女と付き合えばいいじゃん」

と言われたことも複数回あります。

 

最終的には言葉が分からないふりをして逃れていましたが、帰国前くらいの時期になって、当時はその言葉すらなかった「モテ期」のようなこの現象についてチームメイトのブラジル人たちと話したところ、「それはおまえが日本人だから」と言われました。

 

日本でも、特に女性に多く見られる傾向ですが、外国人と付き合ってみたい、という人が一定の割合でいます。

それと同じで、日系ブラジル人とは異なる、日本人というレアなキャラクターに、無いものねだりの積極性が沸いた女性たちがはしゃいでいるだけ、とのことでした。

よって、これは僕の「モテ期」にも「モテ時」にもカウントしていません。

 

別に恋愛や性事情にかかわらず、新しいものや変化に対して肯定的な態度を見せるのは、いつの時代ともどの世界とも同じように、僕の周りでもやはり女性が多かったような気がします。

 

いずれにせよ、このような楽しい経験による偏見と親しみを込めての「ブラジル人男性の約10割がスケコマシ、女性の9約割がアバズレ」であるのですが、そのブラジル時代、最も仲が良かったチームメイトの一人にデッカォンという愛すべきスケベ野郎がいました。

 

彼とは、早い段階で2時間を超える“ケンカのようなこと”をしたことがあります。

入寮当初から人種、というより国籍差別はよく受けましたが、それとはちょっと違った種類のものでした。

 

珍しく午後の練習が無かった日に、たまたまその時一人部屋だった自分の部屋で、僕はトレーニングをしていました。

コンクリートに防水コーティングをしただけの壁と床の無機質な部屋の中で、リフティングボールと呼ばれる、小さくてよく弾むボールを壁に向かって蹴り、それを1フェイク入れながら1タッチでターンをする、というトラップ練習をしていたと思います。

 

そんな練習に励んでいるときに、デッカォンが部屋に入ってきて、僕の練習を邪魔し出しました。

そしてそこからまた別のトレーニングのように、足でのボールの奪い合いになりました。

 

サッカー経験者なら分かると思うことなのですが、ボールを使ったあらゆる練習の中で最も体力を奪われるのが連続でのドリブル1対1、そして次がキープの1対1です。

 

指導者になってから、選手達にアップ目的でキープの1対1をさせる時は5秒から長くても15秒、フィジカルトレーニングでそれをさせる時でも長くても1分単位でブレイクを刻みながら進めています。

 

僕とデッカォンのじゃれ合いから始まった1対1は、それより大分長いものになりました。

 

「いい加減ボール返せよ」に対するまともな人間の応対は、ボールを返すことだと思うのですが、アホなデッカォンは「おまえが負けを認めたらな」と挑発します。

それに対してまともな人間の応対は「はいはい、俺の負け」と言っていなすことだと思うのですが、アホに侵されていた僕は「何言っているんだ。お前の負けだろ」と言ってその挑発に乗ります。

 

かくして子供のケンカのように始まった、おそらく足のリーチの差にして10センチ以上、体重差にして20キロ以上、上回っていたデッカォンが、どこからどう見ても僕に「勝って」いた戦いは、僕が負けを認めないせいで延々と続きました。

 

本来二人用の僕の部屋は10畳くらいの広めの部屋で、故に壁当て自主練なんかも出来ていたわけですが、その広い床に二人の汗が落ち、そしてそれらが溜まり、最終的には大きな水たまりのように床一面を覆いました。

 

そして奪い合いの最中、その床の汗に足を取られて二人とも何度も何度も転び、最終的には上半身裸になったお互いをルール関係なしにレスリングのように掴み合い、こちらの心情としては「早く根負けしてくれねえかな」という祈りに近いものになっていきましたが、おそらくはデッカォンも似たような心境だったと思います。

 

最終的には僕が彼のショーツを掴みながら二人同時に転倒したところで、デッカォンのそのショーツが裂けて竿もフグリも丸見えになり、

「バカ、これ、ホジェーリオ(他のチームメイト)に借りてるやつなんだぞ」

という所で戦いが止まり、自分の部屋に戻ろうとしたデッカォンに「おまえが先にやめたから俺の勝ちな」と、また空威勢を張り、しかしデッカォンも「いや、俺の勝ち」と言いながらも部屋を出ていってくれたところでお開きとなりました。

 

おそらくはお互いにとって訪れた安堵に時計を確認したところ、そのアホで修羅な闘いは2時間を超えていました。

 

後に経験することになるボクシングのトレーニングも、もう二度と味わいたくもないほどの過酷なものでしたが、それをはるかに上回るエネルギーを消耗したこれは、おそらく人生で経験した中で最も苦痛な運動だったと思います。

 

とは言え、これが「サッカーの本場は凄いな」と思ったエピソードではありません。

 

この一見以来、彼とはますます仲が良くなりましたが、さて、そのデッカォンはドナルドダック似の愛くるしい目をしたブロンドヘアの白人で、女性受けが非常によく、おそらくはチームで一番女のコにモテていました。

そして彼にはルースィアという非常に可愛らしい恋人がいました。

 

ただ残念なことにルースィアは愛すべきアバズレではありません。

いつもデッカォンの後ろに隠れてはにかんでいるような、まるで人見知りの日本人のように大人しい女のコです。

歳も大分若く、デッカォンが言うには、彼女にとってはデッカォンが初めての男だったとのことで、デッカォンしか目に入らないくらい一途なコでした。

つまり、残りの1割に相当する、アバズレではない女性でありました。

 

そんな典型的なブラジレイロと例外的なブラジレイラの組み合わせを町中が暖かく見守っていました。

「町中」というのはそれほど大袈裟な表現ではなく、先述のとおり小さな町だったので「誰が誰と親戚関係にある」や「誰と誰が付き合っている」といったことから、僕のことまで「いつ頃、どこからこの町に来た」なんてことをみんなが知っていました。

 

そんな小さな集落のような町の人から見守られていた小さな恋も、終わりは突然にやってきます。

いや、あのときの二人の別れを「突然」と思ったのはおそらくルースィア一人で、デッカォンの女ったらし加減を思えば、ほとんどの人間が「予定通り」だと思っていたかもしれません。

 

別れの理由は「予定通り」にデッカォンの移り気です。

よくある話だな、と町中がいつものように無責任に飽き始めたのですが、この話には微笑ましい続きがありました。

 

デッカォンに振られてから2日と経たないうちに、ルースィアは煙草を始め、更にはノーヘルで50ccのカブにまたがるようになり、僕の彼女に対する代名詞は「はにかみ屋」から、「カブをぶっ飛ばす女」に変わりました。

 

そんなことを知ってか知らずか、ノーテンキなデッカォンは新しい女のケツを一生懸命追いかけています。

その日も、午後のトレーニングが終り、寮での夕食を済ませた後に、デッカォンはその意中の女のコとデートをしていました。

 

きっとバッチリ決め込みたかったのでしょう、練習終りのシャワーの時、僕らチームメイトに、夕方のデートの予定をはしゃぎながら自慢していたのをよく覚えています。

そして僕を含めた暇なチームメイト数人は、デッカォンの快諾の元、彼の新しいターゲットを見るために彼らのデートを見物しに行くことにしました。

今思えば、クソみたいな暇つぶしです。

 

歩き慣れた表通りを少し離れたところで、エロ面のデッカォンが女のコの手を握りながら歩いていました。

多くの女性たちと違って新しいものや変化に対して臆病である、典型的な男らしい男であった僕は、古いものを過大評価する傾向がその時はあり、その新しい彼女を見て「何だ、ルースィアの方が全然かわいいじゃん」と、見物に同席したチームメイトたちに言ったのを覚えています。

 

そして、歩道をゆっくり歩いて下心丸出しの笑顔をさらしているだけのデッカォンと、大してかわいくもない女のコのデートの様子に飽きてきたころ、ここ4、5日ですっかり聞き慣れたバイクのエンジン音が聞こえてきました。

 

そうです。

カブをぶっ飛ばす女、ルースィアの登場です。

 

少し距離があったのと、僕の語学力不足のせいで分かりづらいところもあったので、ここからは、見物に同席した友人たちの説明とデッカォン本人に後から聞いたこと込みの話になりますが、歩道を歩くデッカォンたち二人を正面から見たルースィアは、彼らとすれ違うと同時にカブの速度をゆるめました。

そしてこのときデッカォンも視界にルースィアを認め、握っていた新しい女のコの手をほぼ本能的に離したそうです。

 

しかし、ルースィア、そんなことはお構いなしにカブをUターンさせると、狙いをデッカォンの後姿に定めてエンジンをふかし出しました。

 

ブルン、ブルルン!

ブルーンブーーーーーン!キキ、ドーーーン!!

(デッカォンに向かってそこそこアクセルを加速させ、一応直前でブレーキはかけたものの確信犯的に間に合わず、デッカォンの右太ももから腰にかけて突っ込んだ擬音語と擬態語。)

 

一応はとっさに身構えたデッカォンですが、それでもやはりもんどりうって倒れました。

一方のルースィアはカブを投げ倒すように降り捨て、あまりの驚きに固まってしまった新しい女のコに掴みかかります。

 

怒りか悲しみか、ルースィアが涙を流しながら拳をあげたところで、必死の生還を果たしたデッカォンが連れの女のコをかばおうとしましたが、その時ルースィアの拳を顔面にきれいにもらっていました。

 

俺が全く歯が立たなかったデッカォンに、バイクで一突き、拳で一突き。

やるー。

 

てんやわんやの中、どうにかルースィアをなだめようとするデッカォンと、ますますヒートアップするルースィア。

どうやら別れの理由に関してデッカォンが嘘をついていたみたいで、

「何なのよ、この女!!誰なのよ!!」

とルースィアが激高すると、デッカォンは殴られた口元を押さえながら、ひ弱な声で一言、

「いとこだよ」

と、下手すりゃそこら辺の野良犬にさえも0秒で見抜かれる嘘をぬかしました。

 

そしてそれを聞いてルースィアはまた声を上げて泣きました。

 

逢う魔が時の表通りで、西日にさらされた火事場の馬鹿力を見ながら

「国は違っても男ってやつは一緒だな」

とマヌケ面のデッカォンを微笑ましく思いました。

 

僕にとってはなかなかパンチ力のある事件ではあったのですが、次の日デッカォンは普通に練習に出てきました。

「50ccに轢かれたくらい、ブラジル人にとっては屁でもないんだ」

と、そのフィジカルの強さを知り、サッカーの本場の凄さを認め、大国の基盤みたいなものについて考えたのを覚えています。

 

ちなみにこの数カ月後、アホのデッカォンはサンダルを万引きしたのがばれてチームをクビになります。

大国の実情みたいなものについて考えたのを覚えています。

 

別にアホ達だけを贔屓するわけではなく、うちのゲイも含めて、ロンドンやダブリンで知り合ったブラジル人に対しても大いに好意は持っていますが、デッカォンに代表されるように、長いこと僕にとってのブラジル人とはこんなハジケた感じであり、憧れはしないものの、本音を言えばこっちのタイプの方がより僕の好みではあります。