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「一瞬の夏」の終わり 1

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ヨーロッパの冬はたいてい日本より厳しく、夏は日本よりだいぶ過ごしやすいのにもかかわらず、多くの国でサッカーリーグのシーズン期間に秋~春制を採用している理由は、放映権を持つ衛星放送会社の意向が働いてのもの、ということをロンドン時代のコーチ仲間に聞いたことがあります。

 

夏はバカンスに出かけるか、あるいは直接スタジアムで観戦しやすい季節なので、テレビでのサッカー観戦に向いていない=お金にならない、ということで、時々雪や霜の影響で試合が延期されるにもかかわらず、頑固に真冬の屋外労働を選手にもベンチスタッフにも、スタジアムに足を運んでくれるサポーターにも強いているとのこと。

 

そこいくとアイルランドはサッカー協会がしっかりしているせいか、あるいは人気が無さすぎで放映権とかどうでもいいのか(十中八九後者)、日本と同じ春~秋開催に、数年前から変更したそうです。

 

が、褒めてやろうと思ったのもつかの間、この国のリーグ構成は上から数えて3部目からセミプロやアマチュアになるのですが、どういうわけか放映権やスポンサーの意向なんかは微塵も関係していない、その3部目以降のリーグが全て秋~春開催のままで、つまり冬も雨風に晒されながらの肉体労働に従事することになります。

 

4部リーグに位置する僕のチームももちろんこれに当てはまります。

 

プロのリーグががんばって開催時期を変えたにもかかわらず、セミプロがこの怠惰ぶり、ほら見ろ言わんこっちゃない、今日もグランドコンディションが理由ででリーグ戦が延期になりました。

これで二週連続です。

 

昨夜遅くに延期の連絡が来た時には、週末をフルスイングの堕落で埋めてやろう、と怠け者の僕は反射的に思いましたが、タイミングよくフットサルに誘ってきたアイリッシュの人柄が良かったのと、開催場所の体育館が家から徒歩5分という便利さから、意を決して、アイルランド着陸以来、実に初めての運動に汗を流してきました。

 

事前にそのアイリッシュから「ただのエンジョイフットボール」と聞いていた通り、自分で言うのもなんですが、昔取った杵柄(きねづか)、おそらく最年長であろうアラフォーの僕が王様になれるレベルの、技術的には何ともありがたいナイスガイたちの集まりでしたが、持久力的には年功序列どおりに僕の足が真っ先に止まり、いい気になっていたのも束の間、後半は誰もやりたがらない順番制のゴールキーパーを率先してやらせてもらってました。

 

あのスペイン人のシュート、超痛かったー。

 

わずか一時間、しかもその大半をゴール前で声を出しているだけ、という運動量ではありましたが、終了後の頭と身体は現役時代の公式戦後ばりに疲弊しているものがあり、軽い酩酊状態に近いものがあります。

 

この酩酊状態というのは大袈裟なものでなく、選手時代に日本で社会人クラブに所属していたとき、激しい試合や練習の後はいつも車で帰宅していましたが、その危険さに気付くまでの当初は自覚がない分、何なら少量の飲酒運転よりも危険なものでした。

 

道路交通法の飲酒運転に関して、違反の基準にアルコールの血中濃度を設けているのならば、糖やナトリウムの濃度も調べるべきなのでは?と、途中気づいてから今日まで、結構真剣に思っています。

 

以前、イングランドでUEFA Bライセンスという指導資格を取ったのですが、その講座の中で「選手を取り巻く可能性のある悪い環境」について触れ、日本ではせいぜいタバコや酒くらいに言及するところを、大麻やドラッグの話にも触れるあたりに異文化を感じましたが、そこでもこの「疑似飲酒運転」ともいえる運動後運転には触れませんでした。

 

そういえば、頭を強打される危険性にもちろん相当の違いはありますが、昔通っていたボクシングジムには「スパーリングの心得10か条」的なものが壁にかかっており、その中に「スパーリングの後は運転をしない」旨の項目もありました。

誰も守っていませんでしたが。

 

僕は15年ほど前、ボクシングをやっていました。

 

長年の腐れ縁である友人と初めて一緒に飲んだ時に、その友人が

「ボクシングをやりたいんだけど俺には行動力が無い」

とこぼしたので、短気な僕は一週間以内にどこでもいいからボクシングジムに通い始めろ、という宿題を課しました。

そして彼は、きちんと宿題をしてきました。

 

期限よりも早くジムを見つけ、電話でアポを取り、訪問の予定を立ててきて、その素直さと生真面目さは褒めるべき点ですが、この期に及んで彼はまだ

「一緒についてきて」

などと萎(しな)びたことをぬかします。

 

「格闘技」という、これ以上ないくらい気持ちの強さを要求されるであろう、「意志」、「決意」、「熱意」、いわゆるド根性の最高峰辺りに位置するものに対して「つれション」ばりの「ついてきて」。

なかなかのシュールな言動に心ときめいて承諾してあげましたが、僕がその時、一緒にボクシングジムに行ってあげた理由は他にもありました。

 

その当時、僕は沢木耕太郎著作の「一瞬の夏」というノンフィクション小説を読んでいました。

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