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舞い込んだ幸運

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先日、おそらくは詐欺に遭いかけました。

 おそらく、と言ったのは、遭っているかもしれない被害が少なくとも今のところは何も見つかっていないからです。

なので詐欺ではない可能性があります。

 

基本的に人様の誘いを一切断らない僕は先日、ダブリンにいる数少ない日本人の知人に誘われて、共通の知人であるイタリアの男の子のインスタントお別れパーティーのような集まりに出かけました。

 

ちなみにその彼とは、同一の日本人が以前に開いたスシパーティー的なランチ会で1回会ったきりで、実はパブで彼に再開するまで名前はおろか、僕は顔すら覚えていませんでした。

 

そんなうっすい付き合いでも呼ばれれば基本顔を出すくらいですから、その後の話題に上がった翌週初めのスタバでのミートアップにみんなで行こうとなった時、僕も当然参加することになりました。

 

語学学校に通うようになってからはある程度の学習時間が確保出来ているのでどのミートアップにも顔を出していなかったのですが、ここのところの付き合いの面子もマンネリ化していたことだし、軽いリフレッシュや新たな出会いを期待しての参加でもあります。

 

ところがアプリの地図が示すそのミートアップの開催場所が微妙にずれていて、それのせいで別のスタバに着いてしまいました。

店員に尋ねて間違いだと判明した後、どうしたものかと店を出てエントランス付近でぼんやりと考えていると、横からスッと、ターバンを巻いた南アジア人らしき小っちゃなおじいちゃんが僕に話しかけてきました。

 

「あなた、すごくいい顔をしている。額に3つの幸運のサインが出ている。すごくいい事が起きる」

 

ある意味において非常に素直で騙されやすい僕は、占いなんて一回も行ったことないくせにその話に興味を持ってしまい、 そのおじいちゃんとの会話を始めてしまいました。

 

「3つ?3つも?どこにどう出てんの?」

「僕は長いこと占いの勉強をしてるの」

「うん。で、どこにどう3つもサインが出てんのよ」

「この人知ってる?この人、すごく偉大。すごい人。僕の先生」

 

僕の質問には一切答えず、おじいちゃんはラミネートされた一枚のブロマイド写真のようなものを財布から取り出しました。

 

サイババでした。

 

んー・・・サイババ・・・んー・・・

 

いえ別に僕はサイババを馬鹿にしているわけではありません。

 

・・・んーいやっ・・・文句は無いんだけどさあ・・・こっちとしてもその手の超常現象は基本受け入れ可能だし・・・何せ幽霊とかメッチャ怖がってるくらいだし・・・ただ胡散臭さに関しては一先ず置いとくにしても・・・サイババ・・・ってねえ・・・ちょっと有名すぎじゃね?

 

とツッコミどころが複数ある正直な思いはグッと堪えて、小心者で社交的な僕は

「すげえ、これサイババじゃん。先生なの?俺も彼のこと結構好きだよ」

と、おだててあげました。

 

「僕、予言の勉強もしてるの」

相変わらず僕の発言に対する一切の噛み合わせを考慮せず、しかしまたもやツッコミどころ満載の発言をして自分のペースで事を運ぶ彼は、今度は小さな紙を取り出して、何やら文字を書き込み始めました。

そしてその作業が終わった後、その小さな紙をさらに小さく折りたたんで僕の掌に乗せます。

 

「これ、握って。あと、3つの質問に答えて」

そういうと彼は小さな紙をもう一枚用意しました。

 

「質問?」

「うん。あなたの名前は?」

「シン。S、H・・・違う、N、N」

彼が雑な字で、その2枚目の小さな紙に書き取っています。

 

「歳は?」

「40」

「望みは?」

「んー、無い」

「望みだよ」

「じゃあ、世界平和」

 

これらを受けて、彼の手中の紙には

SHIN

40

peace

と書かれました。

 

「じゃあそっちの紙(僕が手に握っている、小さく折りたたんである方)をこっちの紙(彼が今書いた方)の上に置いて」

 

差し出された彼の掌の紙の上に、言われるまま僕が持っていた紙を置いた時、おじいちゃんがサイババのブロマイドを出して以来、手に持ったまま筆記の下敷きに使っていた財布を見てセンサーが反応したのか、おそらくはジャンキーかと思われる物乞いが僕らの方に近づいてきました。

そして「1ユーロでいいから」と執拗な無心をし始めました。

 

人通りの多い歩道で中毒者に絡まれているという時点で全然幸運ではない、と正直思ったけど、サイババの弟子に「すごくいい顔をしている」と言われていい気にもなっていた僕は、実はこの時「1ユーロくらいなら」と思っていました。

 

しかし中から札束がチラついている財布を持ったおじいちゃんが頑なに拒否をしてこのジャンキーを鬱陶しがったので、僕もそれに倣いました。

 

結局この物乞いは追っ払って、おじいちゃんとは話を続けるのですが、しばらくすると今度は、やはりジャンキーでホームレスかと思われる年配の女性が、訛りがひどすぎて何を言っているのかは全く聞き取れなかったけど、怒りの表情でおそらくは暴言を吐きながら速足で我々に近づき、おじいちゃんのターバンを引っ張る、という嫌がらせをして、すぐさま去っていきました。

再び、全然幸運じゃない。

 

「何なんだろうね。あのキ〇ガイ」

彼は苦笑いをして、ずれたターバンを直します。

 

そして話の途中であった2枚の紙についての言及を再開して、最後に「折りたたんでいる紙を広げて」と、中を確認するように言われました。

彼が僕に3つの質問をする前に、何やら色々と書き込んでいた方の紙です。

 

そしてそれを広げると、そこにはもう一枚の紙と全く同じく

「SHIN 40 peace」

と書かれていました。

そしておじいちゃんは得意顔で僕に握手を求め、2枚ともその紙を僕に預けたまま去っていきました。

 

あらまあ凄い。

先ほども申し上げたとおり、ある意味において素直な僕は、そのような素直な反応を10秒ほど見せましたが、ほとんどの意味においてひねくれている僕は、「なるほど、あいつらグルだったか」という推理に反応を変えました。

 

おそらくは絡んできたジャンキーの物乞いとジャンキーのババアは、僕の視線と気を逸らすことが目的で、その隙にジジイが急いで書き込んだのであろう新たな3枚目の紙がこの手品の仕上げであり、最初に折りたたんで僕に手渡した元の方の紙は、引っ張られたターバンを直しているフリをしてその中に隠したのではないか、と思われます。

 

ちなみに「気を逸らしている隙に」というのはスリの手口と一緒です。

 

となると、しまった!スマホ!・・・は、ちゃんとポケットにある。財布!・・・もバッグの奥底にしっかりとある。じゃあ、ipod!もある。もう一つの携帯もやはりバッグの奥底に眠っている。

念のため財布を開いて中のカード類を調べましたが、紛失しているものは思い当たりませんでした。

 

じゃあ、あのジジイ、何だったんだろう。

意外と僕に隙が無かったから諦めたのかな。

と思って訊ねてみたかったのですが、周りを見渡しても彼はとっくに視界から消えていて、そうすることも出来ません。

 

そうなんだよ、出来る犯罪者はハケるのも早いんだよ。

ということを、過去に詐欺まがいのスリと路上強盗と空き巣の被害に遭っている僕は経験から学んでいます。

 

いや、倍率としてはかなり高いけど、つまり可能性としては超低いけど、彼は本当に予言が出来て、何ならいっそのこと天の使い的なファンタジーな存在であり、僕の今後のラッキーを本当に言い当てたのかもしれない。

と思おうともしたけれど、手元に残った2枚の「SHIN 40 peace」がダメなメールアドレスみてえなマヌケさだけでなく、気持ち悪さもアピールしていたので、この2枚の紙もすぐに近くのゴミ箱に捨てました。

 

チッ、ツいてねえなあ。

 

結局その感想に落ち着いたのですが、その後ミートアップの実際の開催場所であるスタバを自力で見つけ出し、初めて会ったアイリッシュたちにこの話をした時にある程度の笑いを取れたので、まあこれはこれでジジイの言うとおり「幸運」であり、「すごくいいこと」だったんだと思います。

 

というわけで、他人の親切は当てにするくせに、そもそも運を当てにしていない僕は、額に出ていたサイン3つ分の幸運をここで全て使い切ったと仮定し、今後も気を引き締めて、緩やかに暮らしていきたいと思います。

 

 

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